はじめに-すきっ歯とは?
「すきっ歯」とは、歯科用語で「空隙歯列(くうげきしれつ)」とも呼ばれ、歯と歯の間に隙間がある状態を指します。この隙間は前歯で発生することが多いですが、奥歯にも発生することがあります。
すきっ歯自体が健康上の問題を引き起こすわけではありませんが、見た目が気になる人もいる一方で、隙間に食べ物が詰まりやすくなるなどの問題を引き起こすことがあります。また、発音に影響を与えることもあるため、人によってはすきっ歯に対してコンプレックスを抱えている場合があります。
すきっ歯になってしまう原因は1つではありません。様々な原因があるため、すきっ歯が見られた際は歯科医院での早期の検査が大切です。今回は、すきっ歯の原因と歯科での治療方法について解説していきます。
目次▼
前歯が生えてきたばかり
上の前歯は生える際に左右両方がやや外向きに生える傾向があり、そのため前歯の間に隙間が大きくなりがちです。この状態は歯科の教科書で、アンデルセンの童話「みにくいアヒルの子」にちなんで「みにくいアヒルの子時代」と表現されることがあり、一時的には異常に見えることもありますが、隣の歯が生え揃うことで外側から押されて、自然に整うことが多いです。
以下の症例では、下の歯に重なりが見られたためマイオブレースというマウスピース装置を使用していますが、上の前歯の間隔が閉じてきたのはマイオブレースによるものではなく自然な成長過程によるものと考えられます。
しかし、周囲の歯に位置異常がある場合や、生まれつき周囲の歯が足りない先天性欠損の状態では、この隙間が自然に閉じることができない場合があります。
過剰歯の存在
歯と歯の間に過剰歯と呼ばれる余分な歯が存在していると、隙間が生じることがあります。これは特に上顎の中央の前歯に発生しやすく、隙間が長期間閉じない場合、歯科医院でのレントゲン検査を通じて発見されることがよくあります。
このような場合、放置すると隙間が自然には解消されないことが多いため、過剰歯が見つかったら速やかに抜歯を行うことが推奨されます。抜歯後、隙間が自然に閉じることもありますが、残った隙間には歯科矯正治療を施して対処することがあります。
上唇小帯の異常
上唇小帯(じょうしんしょうたい)は、口の内側で上の唇と歯茎を繋ぐ細い膜状の組織です。唇を引き上げると見える、中央にある細い線がそれにあたります。
上唇小帯は唇の動きを適度に制限し、位置を安定させる役割を果たしています。通常、この小帯は生まれた時から存在し、成長とともに細く、薄くなり、自然に退縮していくものです。
しかし、上唇小帯が適切に退縮せずに残ってしまうと、上顎の前歯の間に隙間ができる原因となることがあります。
このような問題が生じている場合でも、5歳から6歳までの乳歯の時期では、上唇小帯が自然に退縮する可能性があります。そのため、「食事時の不便」「唇の動きの制限」「歯磨きの困難さ」などの問題が見られなければ、歯科では経過観察を選択することもあります。
永久歯が生え始め、上顎の前歯に隙間が閉じない場合は、まず過剰歯を含む他の要因がないか検査を行います。その結果、上唇小帯が異常で前歯に隙間が生じていると判断された際は、上唇小帯切除術という外科手術によって治療をすることがあります。
歯の大きさとあごの大きさの不一致
顎が大きく、歯が比較的小さい場合、歯と歯の間に隙間が生じることがあります。その隙間を縮小するためには、歯を動かして閉じる矯正治療が一般的です。それでも閉じきれない場合には、被せ物・詰め物・インプラントで隙間を補填していく治療が選択される場合があります。
矮小歯(わいしょうし)・栓状歯(せんじょうし)
「矮小歯」とは、他の正常な歯に比べてその大きさが顕著に小さい歯のことを指します。一方で、「栓状歯」とは、その形状が円柱形をしており、通常の歯に比べて明らかに細長い特徴を持つ歯のことです。
通常は正規の大きさで発育することが期待される歯が、遺伝的要因や特定の疾患により普通よりも小さく成長することがあります。このように小さい「矮小歯」や形状が特異的な「栓状歯」は、それ自体が直接の異常を引き起こすものではありませんが、一種の歯の変形とみなされることがあります。これらの歯はかみ合わせへの影響、歯並びの問題、あるいは見た目の問題を引き起こす可能性があるため、状況に応じて治療が選択されることがあります。
治療方法としては、歯の前面に取り付ける薄いシェル状のセラミックまたは樹脂製の被せ物である「ラミネートベニア」による修復と、樹脂材料を歯に直接貼り付ける「コンポジットレジン」による修復があり、これらによって隙間を解消することができます。特に前歯の場合は、審美性が重要な要素となるため、ラミネートベニアを選択することが望ましいとされています。
歯の先天性欠損(せんてんせいけっそん)
歯の先天性欠損とは、生まれつき乳歯または永久歯の本数が生まれつき少ない状態を指します。このため、歯の本数が正常よりも少なくなり、歯と歯の間に隙間が発生しやすくなります。
先天性欠損がある場合には、矯正治療によって隙間を縮める方法や、ブリッジやインプラントを用いて欠損部分を補う方法などがあります。
癒合歯(ゆごうし)
癒合歯とは、2つの歯が物理的にくっついている状態を指します。この現象は乳歯によく見られますが、永久歯にも発生することがあります。
乳歯が癒合している場合、2つの歯が一体化しているため、個々の歯の幅が通常より狭くなり、隙間が生じやすくなります。
また、癒合した乳歯に続く永久歯が通常の2本ではなく1本として生えることがあります。これにより、歯が本来の数よりも少なくなり、結果として歯と歯の間に隙間ができてしまうことがあります。
習癖の問題(前歯が前に傾く)
舌の位置が悪く、飲み込むたびに舌を突き出すような癖があると、上下の前歯が前に押されて、隙間が生じてしまうことがあります。
また上下の前歯の間に唇を巻き込む癖や指しゃぶりがあると、上の前歯は前方に、下の前歯は後方に傾いてしまうため、上の前歯に隙間ができ、下の前歯には重なりができることがあります。
まとめ(すきっ歯・空隙歯列)
1. すきっ歯は歯と歯の間に隙間があり、見た目や発音に影響することがある。
2. すきっ歯の原因は多岐にわたり、歯科医院での相談が大切。
3. 生えたばかりの永久歯の前歯の隙間は自然に正常に戻ることが多いが、例外もある。
特に過剰歯には注意が必要
4. あごの大きさと歯のサイズのアンバランスで隙間が生じることがある。
5. 癒合歯や上唇小帯の異常などがすきっ歯の原因となる場合がある。
6. 舌の位置や習癖がすきっ歯の原因となる場合がある。
この記事を書いた人
菊川市 かわべ歯科院長 歯科医師 川邉滋次
参考文献
1. 酒井暢世, et al. "乳歯列期における上唇小帯の形態と付着位置に関する調査研究." 小児歯科学雑誌 55.1 (2017): 44-50.
2. 鈴木冴沙, et al. "乳歯列期における上唇小帯の形態と付着位置に関する調査研究 幼児における実態調査." 小児歯科学雑誌 57.4 (2019): 444-450.
3. 野川博史. "補綴処置によって矮小歯の審美性改善と臼歯部の咀嚼機能の回復が得られた症例." 日本補綴歯科学会誌 15.1 (2023): 89-92.
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