はじめに-歯ブラシをなんとなく買っていませんか?
皆さんは、普段どのような歯ブラシを使用していますか?かわべ歯科では患者さんが使用する歯ブラシを持参してもらい、確認させていただくことがあります。良好なプラーク除去には使用している歯ブラシの大きさや形、状態が適切であるかの確認が大切です。
当院に初めて来院される患者様の中には市販の歯ブラシを使用していた方も多くいます。現在、市販の歯ブラシも機能的に良いものが増えてきています。しかし、歯ブラシの選び方がわからず、価格や広告などで購入を決めている方も少なくありません。また、家族が購入している歯ブラシをなんとなく使用している患者さんも多くいます。
持参された歯ブラシがその方に合った適切なものであれば、歯ブラシの変更をせずにブラッシング方法の説明を行います。しかし、プラークがうまく取れない方は使用している歯ブラシに問題があることが多く見受けられます、
本人のお口の中の状態に適していない歯ブラシを使用していたり、劣化して毛先が広がったままの歯ブラシを使用し続けていたり、歯ブラシの使用後に歯ブラシの清掃や保管が行き届いておらず、お口の中が不衛生な状態になっていることがしばしばみられます。
そのため、初診時にはその人に合った歯ブラシの選択から始めます。歯ブラシの選び方として歯ブラシのヘッドの大きさ・毛の材質・毛の長さ・毛先の形状・毛束の形状の5点あります。今回はこの5点について詳しく説明していきます。
この記事を読んでいただき、よく売れている歯ブラシやブランド等で決めるのではなく、ご自身の歯ブラシの熟練度とお口の中の状況で決めていただくことで、より効率よくブラッシングを行っていただき、お口のケアに興味を持っていただけたら幸いです。
目次▼
ヘッドの大きさ
歯ブラシのヘッドの大きさはお口の中の広さや歯列・歯の大きさ、性別や世代によって選択が異なります。ヘッドが小さい歯ブラシはお口の中に入れた時に違和感が少なく操作もしやすいため選択する方が多いです。しかし、歯の面に当たる面積が狭いためブラッシング時間に余裕がある方やブラッシングテクニックが安定している上級者向けです。
一方、ヘッドの大きい歯ブラシは歯の面に広く接し、簡単にブラッシングを行えることが特徴です。しかし、細かい部分には当たりにくいため、複雑な被せ物が装着されている人には不向きです。ブラッシングテクニックの難易度も優しいため、高齢者や歯ブラシがうまくできない方にお勧めしています。
毛の材質
歯ブラシの毛の材質として主にナイロン、飽和ポリエステル樹脂が使用されています。
ナイロンは市販の歯ブラシで多く使用されている材質で昔から使用されています。水を吸収しにくいことが特徴で歯ブラシの毛の中で雑菌が繁殖しにくい材質です。
飽和ポリエステル樹脂は歯科医院で販売されている歯ブラシで多く使用され、ナイロンより耐久性が高く、極細の毛を作ることができることが特徴です。(2023年9月現在、スーパーやドラッグストア等の市販の歯ブラシでも飽和ポリエステル樹脂の歯ブラシは多く見かけるようになってきています。)
毛の長さ
歯ブラシの毛には長いものと短いものがあります。歯ブラシの毛が長いとしなりがよく、歯面や歯ぐきへの当たりがソフトです。そのためプラークが付着しやすい方にはあまりおすすめしません。
一方、歯ブラシの毛が短いと当たりが硬く、ブラッシング圧が強い方は歯ぐきを傷つける恐れがあります。
毛先の形状
ヘッドの大きさや毛の長さ以上に毛先の形態は清掃効率を左右します。毛先の形態はフラット毛・ラウンド毛・テーパード毛・先端極細毛(スーパーテーパード毛)など多くの種類があります。
ここではフラット毛、ラウンド毛、テーパード毛の特徴を挙げていきます。
1. フラット毛(水平毛)
表面が平面のため歯の面をお掃除する事に向いています。しかし細かい部分には不向きです。
2. ラウンドカット毛
歯ブラシの中で多いのがこのラウンドカット毛です。
毛先が丸く加工されており、歯の面に接触する面積が大きく、歯面のプラークを効率よく除去できるため、清掃性が高いことが特徴です。プラークが付着しやすい方や、ブラッシングに自信がない方におすすめです。しかし、細かい部分の清掃性はやや劣ります
また、歯ブラシ時の力加減が強いと、歯のすり減りや歯ぐきが下がってしまうことが起こりやすいため、注意が必要です。
3. テーパード毛
円錐形で先端に向かって細くなっているので歯間部やポケット内に毛先が届きやすいことが特徴です。
主に歯肉の近くを磨くことをメインとしているため、比較的やわらかく歯肉溝に入りやすくなっています。そのため、歯周病予防の歯ブラシと位置づけられています。
しかし、歯面にあたる毛先の面積がラウンド毛と比較して劣るためプラークが付着しやすい方には不向きです、また、ラウンド毛と比べて耐久性が低いです。
毛束の形状
市販の歯ブラシだけでも毛束の形状は様々です。
では多くの種類の毛束の形から何を選んでいけばいいのでしょうか?
2011年の研究論文より、歯ブラシの毛束の形状にはプラークや歯肉炎、歯ぐきの傷つきに大きな差はないと報告されています。
その中であえて選ぶとすれば、形状として「2段植毛」または「超極細毛」をおすすめします。
2段植毛は短い毛が歯の凸部、長い毛が歯と歯の間の凹みにあたり歯全体を効率良くみがくことができます。
超極細毛は細く多数の毛が植えてあるため、歯の細かい部分まで当てる事ができます。
歯ブラシの交換時期の目安は?
歯ブラシを定期的に交換していますか?「まだ使えるからもったいない」「買いに行くのが面倒で今の歯ブラシを使い続けている」と思っている方もいらっしゃるかもしれません。
歯ブラシメーカーライオンさんの調査によると、歯ブラシの交換をしていなかった理由として「まだ使えると思った」「毛先が開かなかったので大丈夫と思った」「取り替える必要性を感じなかった」「もったいない」「取り替えるのが面倒」「なんとなく」という回答がありました。
歯ブラシは一生ものではなく消耗品です。キュラップロックスなど一部の特殊な歯ブラシを除き、毛の劣化も考慮し1ヶ月ごとに交換することをお勧めします。
では、なぜ同じ歯ブラシを長期間使用してはいけないのか?この理由として「清掃効率が大幅に落ちる」「歯ぐきを傷つけてしまう」「細菌の繁殖」の3点が挙げられます。
1. 清掃効率が大幅に落ちる
毛先が開いた歯ブラシや材質が劣化した歯ブラシは歯磨きの効率が大幅に落ちます。小児歯科学会の研究によると新しい歯ブラシの清掃効率を100%とすると、毛先が少し開いた歯ブラシだと80.8%、毛先が開いた歯ブラシは62.9%と、毛先が開くに連れてプラークが除去しづらくなっています。
実際に赤染めをした模型で比較しても歯ブラシの清掃効率の違いがわかります。
2. 歯ぐきを傷つけてしまう
開いてしまった毛先は、清掃効率が悪くなるだけでなく、はねてしまった毛先が近くの歯ぐきを傷つけてしまう恐れがあります。
3. 細菌の繁殖
歯ブラシを湿気の多い洗面所に置いておくと、細菌が繁殖する恐れがあります。どんなに歯ブラシを洗って、乾燥させ、湿気の少ない場所に置いておいても細菌が増える恐れはあります。
1ヶ月経過していなくても毛先が開いてしまっている場合は、ブラッシング圧が強すぎる場合があります。この場合早めに交換するとともに、ブラッシングの力具合を歯科衛生士からアドバイスを受けましょう。
まとめ(歯ブラシの選び方)
1. その人ごとに合った歯ブラシがあり、ブラッシングの熟練度や、お口の中の状態で左右される。
2. 適切でない歯ブラシ使用例として劣化や清掃不足が原因
3. 歯ブラシ選択基準として「ヘッドの大きさ」毛の材質、毛の長さ、毛先の形状、毛束の形状がある。
4. 歯ブラシの交換時期は1ヶ月ごとが推奨、劣化で清掃効率低下、歯ぐき傷つけ、細菌繁殖のリスクがある
この記事を書いた人
かわべ歯科 歯科衛生士スタッフ
参考文献
1. Claydon, N., et al. "Comparative professional plaque removal study using 8 branded toothbrushes." Journal of clinical periodontology 29.4 (2002): 310-316.
2. Stroski, M. L., et al. "Clinical evaluation of three toothbrush models tested by schoolchildren." International journal of dental hygiene 9.2 (2011): 149-154.
3. Bergenholtz, Axel, et al. "Role of brushing technique and toothbrush design in plaque removal." European Journal of Oral Sciences 92.4 (1984): 344-351.
4. 歯ブラシは1ヶ月で替えることをおすすめします. ヒロワちゃんねる[歯科ディーラーYouTuber]. 2020. https://www.youtube.com/watch?v=XL6t3L86ISA.