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執筆者の写真かわべ歯科歯科衛生士スタッフ

妊娠中の歯のトラブルとお口の健康を守るために知っておきたいポイント

更新日:2023年10月2日

はじめに


妊娠時期は普段と環境が変化するため、お口の中の状態も影響しやすくなります。

今回は妊娠中の歯のケアについてお話します。


目次▼

 

妊娠中はむし歯になりやすい


妊娠中はむし歯になりやすいお口の環境です。


妊娠期は食生活などが変化します。つわりで食事の好みが変化し甘いものが欲しくなる機会が多くなりやすいです。また空腹を避けるために間食の回数が増えてしまい、むし歯のリスクが高まります。


さらにお口の中に歯ブラシを入れると、気持ち悪くなるなどの理由で歯磨きがおろそかになる傾向があります。歯磨きが難しい場合には、子ども用の小さい歯ブラシや細いワンタフトブラシ(シングルブラシ)や歯間ブラシを使用し、体調が良い時や気持ちが落ち着いている時を狙って口腔ケアを行なってください。


うがいだけではプラークを除去することは難しいため、最低でも1日1回はお口の中の清掃をしましょう。


ワンタフトブラシ
ワンタフトブラシ

妊娠中の栄養管理は生まれてくる子供が丈夫で健康な歯を持つためにも大切です。なぜなら、生まれた時には赤ちゃんのあごの骨の中で乳歯は頭の形ができ、根の部分が伸びている最中です。さらに驚くかもしれませんが、永久歯も存在し、歯胚(しはい)という種のような状態から形を変え始める時期です。


健康的な食事は妊婦さんのお口の中の環境だけでなく、全身の健康、生まれてくるお子さんにも大切です。


むし歯予防という観点からは、精製された炭水化物(糖質など)は極力控え、歯のミネラル成分を補充を後押ししてくれる栄養素(ビタミンA、ビタミンC、ビタミンD、カルシウムやリン)を積極的に摂取してください。また良く噛むことで血行が良くなり、唾液が出やすくなります。


歯の形成や成長に関係する栄養素
歯の形成や成長に関係する栄養素

むし歯で歯の痛みなどがあると、食事や睡眠も妨げられてしまいます。この時期だからこそお家でのケアの徹底と定期的な歯科医院の通院をおすすめします。


ちなみにむし歯治療ですが、妊娠期通常に近い歯科治療ができる時期は妊娠中期とよばれる16週から27週と限られています。その他の時期は応急処置が限界となることが多いため、妊娠する前からお口の中をきれいにして予防することが大切です。


妊娠すると歯ぐきの炎症が起きやすい


妊娠中はエストロゲン、プロゲステロンという女性ホルモンが増えるため、女性ホルモンを好む特定の歯周病菌(プレボテラ菌)が増加します。これにより「歯ぐきがはれる」「歯ぐきから血が出る」といった妊娠性歯肉炎が引き起こされます。


妊娠性歯肉炎は妊娠期に特有の症状ですが、プラークが付着していないと炎症は起こらないため、お口の中の改善によって治癒します。


さらに妊娠期は唾液の分泌が減少してしまい、お口の中ががネバネバするなどの症状が現れ、歯肉炎が悪化することがあります。乾燥していると細菌がさらに増殖するため、糖類を含まない飲み物をこまめにとり、水分補給をしましょう。


この妊娠性歯肉炎を悪化させないためにも、歯科医院でのメインテナンスや家でのホームケアは必要です。


他にも妊娠性エプーリスとよばれる歯ぐきに膨らみが発生することがあります。ほとんどの場合出産後に消失するため、お口の中の環境を改善しながら経過を見守っていくことが多いです。もし出産後にも消失しない場合はエプーリスを切除する場合があります。


妊娠性エプーリス
エプーリス

妊娠中に歯科医院でのケアを受けた方が良い理由


妊娠中は、歯科医院での検査や治療、使用する薬剤などの胎児への影響を心配してしまい、受診を控えてしまう方も多いのではないでしょうか?


しかし、歯科用の麻酔薬や抗生物質、痛み止めに関しては妊娠中に使用可能なものもあります。さらに歯科のレントゲン撮影は胎児への被ばく線量はとても低く、防護用のエプロンなども身につけるため、必要な歯科治療は受診した方が良いと考えられます。


妊娠中の歯科医院のケアによって、お口の中の細菌を減らし、炎症などを抑えることで、口だけではなく母体自身の健康増進にもつながります。


若くても歯周病の検査をする必要があるの?


歯周病の検査は、歯ぐきの検査を行い状態を把握することにより、歯周病になっているかを診断します。歯周病といえば、歯ぐきからの出血を想像しますよね?お口の中だけの問題と考える方も多いと思いますが、実際にはそうではありません。歯周病は歯周病菌の長期間にわたる感染症です。つまり、症状が出たときには進行していることが多くあります。


炎症が長時間続くと、いろいろな歯周病細菌だけでなく、炎症によってできた毒素などが血管経由で、子宮や胎児へ到達する恐れがあります。それらによって子宮の収縮が起こりやすく早産や低体重児出産のリスクが高まると考えられています。


早産と低体重児のリスク因子として歯周病が挙げられています。実際、日本歯科医師会の母子健康手帳活用ガイドにも「重度の歯周病は胎児の成長に大きな影響を及ぼすことがあります」と書かれています。


少しでもリスクを下げるためにも、妊娠中だけでなく、妊娠前から早めの歯科医院への受診と、お口の中のケアを普段よりも丁寧に行うことが大切です。


パートナーのお口の中のケアも大切です


歯周病菌は唾液を介して感染します。女性が歯周治療やケアを行っていても、パートナーが歯周病であれば細菌が伝播するため、治療の効果は下がります。パートナーの方も相手に歯周病をうつさないという思いやりが大切です。2人揃っての歯科医院への受診をお勧めしています。


妊娠前からお口の中の衛生管理や定期メインテナンスによって、歯周病やむし歯のない状態で妊娠に臨むことが理想です。また、妊娠中からでも少しでも良い状態で出産を迎えられるように、お口の中のケアを歯科医院で受けていただけたらと考えております。


お口の中の先天性異常は原因不明が多い


お口に関係する先天性異常は口唇裂・口蓋裂・癒合歯・癒着歯があります。


生まれてくる子どもの先天性異常は遺伝によるものもありますが、原因不明のものが多いです。その中で、母体のストレスや栄養障害、環境が原因の1つに挙げられています。


環境の具体例として、睡眠時無呼吸症候群と喫煙・アルコールがあります。

アルコールは胎児性アルコール症候群という、妊婦さんのアルコール摂取によって胎児の顔面を中心とする先天性異常の原因になることもあるため、少量の飲酒でも避けた方が望ましいと考えられます。


胎児の顔や上あごがつくられ始めるのは妊娠初期(2〜3ヶ月)の早い段階で始まります。

そのため、妊娠前からの対策準備が大切です。


 

まとめ


1. 妊娠中は食生活や妊娠ホルモンが影響し、むし歯や歯周病になりやすい。


2. 妊娠中の食事の好みの変化やつわりによる歯磨きの難しさなどがむし歯のリスクを高める。


3. 妊娠中、歯科治療が可能な期間は妊娠中期(16週から27週)で、それ以外の時期は応急処置が主となる。


4. 妊娠中は女性ホルモンが増え、歯周病菌が増えやすく、歯肉炎を引き起こしやすい。


5. 妊娠性エプーリスという歯ぐきに膨らみが発生することもあり、出産後に消失しない場合は治療が必要。


6. 歯周病は全身の健康に影響を与える可能性があり、早産や低体重児のリスク因子ともされている。


7. パートナーの口腔ケアも重要で、歯周病菌は唾液を介して伝播するため、二人揃っての歯科医院への受診が推奨される。


8. 口腔内の先天性異常には遺伝が関与することもあるが、原因不明のものが多い。


 

この記事を書いた人



かわべ歯科の衛生士


かわべ歯科 歯科衛生士スタッフ


 

参考文献


1. 日本産婦人科学会周産期登録.2010.


2. Offenbacher, Steven, et al. "Periodontal infection as a possible risk factor for preterm low birth weight." Journal of periodontology 67 (1996): 1103-1113.


3. Michalowicz, Bryan S., et al. "Treatment of periodontal disease and the risk of preterm birth." New England Journal of Medicine355.18 (2006): 1885-1894.


4. JEVTIĆ, Marija, et al. The role of nutrition in caries prevention and maintenance of oral health during pregnancy. Medicinski pregled, 2015, 68.11-12: 387-393.


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