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2023年から日本でフッ化物(フッ素)入り歯みがき粉の使い方が変わった!?

はじめに-フッ化物入り歯磨き粉何が変わった!?


歯磨き剤の変遷
かわべ歯科の歯磨き粉コーナー

フッ化物(フッ素)が配合された歯磨き粉は、むし歯予防に効果があると世界中で研究が進められ、その高い効果が報告されています。


日本でも、2012年に母子健康手帳に「フッ化物についての質問事項」が追加され、2017年には歯磨き粉に含まれるフッ化物イオン濃度の上限が1,500ppm(ppmは液体の微量な濃度を表す単位)に引き上げられました。これにより1,450ppmのフッ化物を含む歯磨き粉が歯科医院やドラッグストアで販売されるようになりました。


さらに、2023年1月には主に幼児から小学生を対象としたフッ化物入り歯みがき剤の推奨濃度基準が変更されました。


今回は、2023年の変更点とフッ化物の適切な使用方法について詳しくまとめました。


▼目次


 

フッ化物(フッ素)の働きは?


フッ化物の働きとして以下に記載した4つが挙げられます。


1. 歯の修復を早める(再石灰化)

2. 歯が溶けるスピードを遅くする

3. 歯を強くする

4. 細菌の活動を妨げる


これらの働きにより、フッ化物はむし歯の進行を遅らせる効果があります。


フッ化物の効果を十分に得るためには、フッ化物入り歯磨き粉を使ってブラッシングし、口中にフッ化物を残すことが大切です。フッ化物濃度1,000ppmで約23%、1,500ppmで約30%のむし歯予防効果が期待されます。


また、フッ化物は歯ブラシが届きにくい部位にも効果があるため、子供から高齢者まで幅広い年齢層の方におすすめです。


フッ化物入り歯磨き粉は、世界で15億人以上が使用しており、日本でも2020年には歯磨き粉全体の92%を占めています。


2023年1月の変更で何が変わったの?



年齢別フッ化物の利用方法2023

(歯が生え始めた〜2歳の場合)


乳児のフッ素濃度

従来、フッ化物濃度の上限は500ppmでしたが、2023年1月から1,000ppmに引き上げられています。フッ化物入り歯磨き粉の濃度は1,000ppm(市販だと950ppmが多い)で、使用量は1〜2ミリです。1日に2回(寝る前を含む)歯磨きの際に使用します。


乳児の場合、歯ブラシが使用できない場合にはガーゼやコットンを使用することも可能です。


保管については、子どもの手の届かない場所に保管し、歯磨き方法については歯科医師や歯科衛生士のアドバイスを受けることをおすすめします。


(3〜5歳の場合)


幼児とフッ化物歯磨剤

こちらも従来の上限は500ppmが上限でしたが、現在は1,000ppmまで引き上げられています。フッ化物入り歯磨き粉の濃度は1,000ppm(市販品では950ppmが多い)で、使用量は5ミリです。1日に2回(寝る前を含む)歯磨きで使用し、気になる場合は軽くつばを吐き出すか、少量の水で1回だけゆすぐことも可能です。


(6歳〜大人・高齢者の場合)


小学生以降の歯磨き粉選び

以前はフッ化物濃度1,000ppmが上限でしたが、2023年から1,500ppmに変更されました。フッ化物入り歯磨き粉の濃度は1,500ppm(市販だと1,450ppmが多い)で、使用量は約2センチです。1日に2回(寝る前を含む)歯みがきで使用します。また、インプラントやチタン冠がある場合でも、日本で販売されているフッ化物入り歯磨き粉は使用可能です。


フッ化物配合濃度が上がるとむし歯予防効果は変わる?


2015年の信頼性の高い論文によれば、フッ化物濃度1,000ppmの歯磨き粉を使うことで23%のむし歯予防効果が得られ、1,450ppmでは29.3%にまで予防効果が上昇することが示されています。


つまり、同じように歯磨きをしてもフッ化物濃度1,000ppmから1,450ppmの歯磨き粉に変えることで、むし歯予防効果が6.3%向上するため、6歳以上であれば1,450ppmの歯磨き粉を選ぶことが推奨されます。


この論文には続報があり、フッ化物濃度が2,200ppmや2,800ppmとさらに高い場合、むし歯予防効果がはそれぞれ33.7%、35.5%まで上昇するという報告もあります。ただし、日本ではフッ化物濃度1,500ppm以下のみが認可されているため、それ以上の濃度は現状の日本では使用が難しい状況です。


日本のフッ化物歯磨き粉のフッ素濃度上限は1,500ppmなのに実際歯科医院や市販品では1,450ppmまでしか見かけないのはなぜ?


こちらに関しては製品情報なので歯磨き粉大手メーカーであるライオンさんとサンスターさんに直接問い合わせをしてみました。


回答はどちらも同じ意見で、「国の基準の1,500ppmは少しでも超えてしまうと販売することが難しくなってしまう。歯磨き剤は濃度がなるべく均一になることは理想だが、どうしても測定場所によっては微々たる違いではあるがムラが出てしまう。そのムラを考慮して濃度を設定すると1,450ppmが適切と考えられる」との回答でした。幼児用の歯磨き剤が1,000ppmではなく950ppmになっているのは、ムラがあっても1,000ppmを超えないようにするためとのことです。


フッ化物入り歯磨き粉を使っているのにむし歯が発生するのはなぜ?


日本では、毎日歯を磨く人が95.3%、毎日2回以上磨く人も77.0%と増加を続けています。


しかし、これだけ多くの人が毎日2回以上歯を磨いているのにもかかわらず、いまだにむし歯が多いのが現状です。


実際、当院でも年に1回、幼稚園や保育園の歯科検診を行なっていますが、むし歯があるお子さんも見受けられます。


その理由として、以下のことが考えられます。


1. フッ化物濃度が低い歯磨き粉、またはフッ化物が含まれていない歯磨き粉を使用している。


2.フッ化物入り歯磨き粉の使用量が少ない。


3. ブラッシング時間が短い、または磨き残しがある。


4.フッ化物入り歯磨き粉を使用した後に何度もゆすいでしまう。


5. 飲食の内容や回数に問題がある。


6. 唾液の量が少ない、または口呼吸によって口中の唾液が減っている。


7. フッ化物入り歯磨き粉を使用した後すぐに水を飲んでいる。


先ほど、フッ化物の濃度や使用量について説明したため、次の項目では理由の4と7についてご説明します。


フッ化物入り歯磨き粉使用後の大量ゆすぎはNG!?


フッ素入り洗口液

フッ化物入り歯磨き粉を使用しても、たっぷりのうがいで大半を流してしまうことがあります。そのため、むし歯予防効果を高めるために「計量カップ大さじ1杯分(15ミリリットル)の水で、約5秒程度の軽い1回のゆすぎ」にし、フッ化物をしっかりと口中にキープすることが重要です。この方法で、むし歯予防効果をより高めましょう。


歯磨き粉の濯ぎ方

また、フッ化物入りの歯磨き粉を使用した後すぐに「水ならむし歯の原因にならないから大丈夫」と考えて水を飲む方もいますが、口内のフッ化物の濃度が薄まることで効果が弱まってしまいます。


喉が乾く場合は、フッ化物入り歯磨き粉を使う前に水を飲むことをお勧めします。さらに、キシリトール100%であっても、チューイングガムやグミはフッ化物入り歯磨き粉使用後に摂取を控え、効果を弱めないようにしましょう。


むし歯になりやすい歯、人のタイプは?


生え始めたばかりの永久歯は硬さが不十分で磨きにくいため、むし歯になりやすい状態です。この場合、フッ化物入りの歯磨き粉でのケアが推奨されます。


その他にも、ドライマウス(口腔内の乾燥)、矯正治療中、糖や酸の摂取頻度が高い仕事環境、ブラッシングが困難な方などは、むし歯リスクが高いため、フッ化物入り歯磨き粉に加え、フッ化物洗口液などの使用もおすすめです。


また高齢者の場合、歯ぐきが下がって歯根が露出し、むし歯に発生しやすい部分となりますが、この部位にもフッ化物は有効だとされています。


高齢者のむし歯

フッ化物洗口液の使用方法について


フッ化物洗口液は4歳以上が対象ですが、子どもが「ぶくぶくうがい」を正しく行えることが重要です。日常的に使用するフッ化物洗口液の濃度は225〜450ppmで、歯科医院だけでなく薬局でも購入できます。


むし歯リスクの低い子どもは225ppmや250ppmの製品、むし歯リスクが高い子どもには450ppmの製品が適しています。


使用方法としては、就寝前に1日1回、フッ化物歯磨き粉でのブラッシング後にフッ化物洗口液を使用することが推奨されます。


幼稚園や保育園でフッ化物洗口を行っている日でも、フッ化物歯磨き粉の使用は可能です。


幼稚園や保育園のフッ化物洗口

フッ化物入り洗口液を使用する際は、正しい使用方法や量を守り、洗口後は最低30分間はうがいや飲食を避けましょう。水分補給が必要な場合は、洗口前に水や麦茶などを飲むことをおすすめします。


フッ化物の安全性


子どもにフッ化物入り歯磨き粉を使用することを不安に感じる親御さんもいらっしゃるかもしれません。その心配を解消するためにも、年齢や歯の生える状況に合わせたフッ化物の濃度を知ることが大切です。


フッ化物の副作用には「急性中毒」と「アレルギー」がありますが、適切な使用方法と量を守れば、中毒症状が発生することは少ないと考えられます。


ブラッシング後に吐き出したとしても、一部は口内に残りますが、3〜5歳児で使用量の約15%が残る場合でも、中毒の心配はありません、


歯磨きや洗口の際に飲み込んでも1回分であれば問題はありません。毎回飲み込む場合には慢性中毒のリスクがあるため、しっかり吐き出すことをお子さんに説明しましょう。フッ化物配合歯磨き粉や洗口液を初めて使用する前に、水で「ぶくぶくうがい」の練習をしておくと良いでしょう。


また、使用するにあたっては保護者の方の協力が必要です。小さいお子さんがいる場合は、誤飲の危険もあるため、フッ化物歯磨き粉や洗口液はお子さんの手の届かないところに保管してください。


「フッ化物濃度が濃ければ濃い方がむし歯予防に効く」という考え方は大変危険です。中学生以下のお子さんの使用するフッ化物歯磨き粉に関しては、年齢に合わせた適切な濃度と量を守ってください。


例えば、5歳以下の幼児は、体重あたりのフッ化物量が多くなると、歯のフッ素症(歯に白や茶色の斑点が出る症状)を起こす恐れがあるため、子ども用(約950ppm)のフッ化物入り歯磨き粉の使用をおすすめします。


歯のフッ素症

2024年に発表されたコクランレビュー(臨床研究論文を調査分析し総合評価する団体)によると、「1~2歳から5~6歳までの小児が1,000ppm以上のフッ化物配合歯磨き剤でブラッシングを行うと、永久歯に歯のフッ素症を発症する可能性が高まる」と結論づけています。


一方で、高校生以上になると歯のフッ素症の心配がほぼなくなるため、日本で許可されている高濃度フッ化物入り歯磨き粉を使用することが可能です。


この情報から、「小さい子どもにフッ化物歯磨き粉を使わない方がいいのでは?」と疑問に思う方もいるかもしれません。


私が幼稚園・保育園・こども園の講演会で、以下のように食塩を例にとってフッ化物の安全な量を説明しています。「塩のない食事は味気なく感じますが、塩分の摂りすぎは身体に害を及ぼす可能性があります。同様にフッ化物入りの歯磨き粉も適切な濃度と量を守ることで安全に使用できるのです。」


それでも心配な場合には、体内に取り込まれにくい「モノフルオロリン酸ナトリウム(MFP)」を使用している歯磨き粉がお勧めです。


フッ素入り歯磨き粉などを禁止している国が海外であるって本当なの?


フッ化物入りの歯磨き粉を禁止している国があるという情報を聞いたことがある方もいるかもしれませんが、結論として、フッ化物入りの歯磨き剤を禁止している国はありません。それでは、なぜこのような情報が出回ったのでしょうか?各国のフッ化物事情を含め、以下で詳しく見ていきます。


世界のフッ化物歯磨き粉事情

禁止されていると噂されている国はスウェーデン・オランダ・ドイツです。

では実際にフッ化物入りの歯磨き粉は禁止されているのでしょうか?


スウェーデン


スウェーデンでは「イエテボリテクニック」と呼ばれる予防的な歯磨き方法が採用されており、日本でも多くの予防歯科医院で導入されています。その中でも「フッ化物入りの歯磨き剤の使用」が推奨されています。従って、スウェーデンでフッ化物入りの歯磨き粉は禁止されていません。


ドイツ


ドイツでは、ケルンで2年に1度「国際デンタルショー」と呼ばれる大規模な歯科業界の展示会が開かれていますが、その展示会でもフッ化物入り製品が数多く展示されています。よって、ドイツでもフッ化物入り歯磨き粉は禁止されていません。


オランダ


オランダの薬局
赤丸の部分にフッ化物入りと表記

オランダの薬局で販売されているシェアの高い歯磨き粉の成分を確認したところ「フッ化物が入っている」と記載されていました。従ってオランダでもフッ化物入り歯磨き粉は禁止されていません。


では、なぜ「フッ化物歯磨き粉が禁止されている」という情報が誤って広まったのでしょうか?


その理由は、フッ化物の中でも「有機フッ化物(ピーファス)」が規制されたことにあります。ピーファスは自然界でほとんど分解されず、人体に取り込まれれば体内に長く残り「永遠の化学物質」とも呼ばれ、健康へのリスクが指摘されています。数千種類が存在しますが、代表的なPFOSPFOAは、海外だけでなく日本でもすでに製造・使用が原則禁止されています。


一方、フッ化物入り歯磨き粉に使用されるフッ化物は「無機フッ化物」のため規制はされていません。海外でフッ化物入り歯磨き剤が禁止されているという情報は、恐らく有機フッ化物の規制をフッ化物全体の規制と誤解された可能性があります。


フッ化物を活用するスウェーデン式歯磨きとは?


フッ化物配合歯磨き粉をより効果的に使用する方法として、スウェーデンで開発された「イエテボリテクニック」と「スラリー法」をご紹介します。


1. イエテボリテクニック(2+2+2+2のテクニック)


イエテボリテクニック

1日2回(朝と寝る前)、1回につき2分間、フッ化物入り歯磨き粉を2センチメートル使用して磨き、ブラッシング後は2時間飲食を控えるという方法です。フッ化物の効果をより出すためにうがいを控えることをお勧めします。


固定式の矯正装置を使用している方や、むし歯治療を多く経験している方、口の中が乾燥しやすい方(ドライマウス)は、1日3回に増やしましょう。


電動歯ブラシやヘッドの小さな歯ブラシの場合は、2センチメートルの幅がないため、1センチメートル使用して上あごの歯、再度1センチメートル足して下あごの歯を磨いていきましょう。


2. スラリー法(PBSR)


これは歯磨き後にフッ化物をよりお口の中に行き渡らせながら滞留させる方法です。


フッ化物入り歯磨き粉を歯全体にまんべんなく塗り付け、歯を磨いている2分間何も吐き出さずにおきます。それから、10ミリリットルの少量の水を口に含ませて、20〜30秒間お口の中を活発に動かしてブクブうがいをします。


この間、口の中にある歯磨き粉と少量の水が合わさりスラリー(泥状の液体)が作られ、フッ化物を多く含んだ液体が、お口の中の広範囲に行き渡りやすくなります。


ブクブクうがい後は、歯磨き粉を吐き出し、再度うがいは行わず、2時間飲食を控えます。(どうしても口の中が不快な場合は少量の水で軽くゆすいでも良いです。)


 

まとめ


1. フッ化物はむし歯の進行を遅らせる効果があり、フッ化物入り歯磨き粉は世界でも幅広く利用されている。


2. 5歳以下の幼児は、フッ化物濃度による歯のフッ素症を起こさないためにも、1,000ppm以下のフッ化物入り歯磨き粉をおすすめする。


3. フッ化物入り歯磨き粉でブラッシングした後の多めのうがいはNG。また歯磨き後2時間以内の飲食は水でもなるべく控える。


4. むし歯のリスクが高い人ほどフッ化物でのむし歯予防は大切。


5. フッ化物入り歯磨き粉は1日2回以上、フッ化物洗口液は1日1回すると良い。フッ化物洗口はフッ化物入り歯磨き粉と併用することが望ましい。


6. 歯のフッ素症等を防ぐためにも中学生までは歯磨き粉は用法用量を守ることが大切。濃ければよく効くという安易な発想は危険。


7. 海外でフッ化物入り歯磨き粉を禁止している事実はない。


 

この記事を書いた人



静岡県菊川市の歯科衛生士


かわべ歯科 歯科衛生士スタッフ



 

参考文献


1. FDI World Dental Federation.Caries prevention and management chairside guide.2017.

https://www.fdiworlddental.org/caries-prevention-and-management-chairside-guide


2. Buzalaf, Marília Afonso Rabelo, et al. "Mechanisms of action of fluoride for caries control." Fluoride and the oral environment 22 (2011): 97-114.


3. Wright, J. Timothy, et al. "Fluoride toothpaste efficacy and safety in children younger than 6 years: a systematic review." The Journal of the American Dental Association 145.2 (2014): 182-189.


4. 4学会合同のフッ化物配合歯磨剤の推奨される利用方法. 一般社団法人 日本口腔衛生学会, 公益社団法人 日本小児歯科学会, 特定非営利活動法人 日本歯科保存学会, 一般社団法人 日本老年歯科医学会. 2023.


5. 厚生労働省. 平成28年歯科疾患実態調査結果の概要. https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/62-28-02.pdf


6. Twetman, Svante. "The evidence base for professional and self-care prevention-caries, erosion and sensitivity." BMC Oral Health15.1 (2015): 1-8.


7. Wong, May Chun Mei, et al. "Topical fluoride as a cause of dental fluorosis in children." Cochrane Database of Systematic Reviews 6 (2024).


8. Toumba, K. J., et al. "Guidelines on the use of fluoride for caries prevention in children: an updated EAPD policy document." European Archives of Paediatric Dentistry 20 (2019): 507-516.

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