はじめに-食事が早い・遅いで悩んでませんか?
家族や友人と食事をした際に「この人もう食べ終わったの!?」「食べるのが遅いな‥まだ食べてる」と思った事はありますか?もちろん同じ食事、同じ量でも食べるスピードには個人差がありますが、早すぎたり遅すぎたりすると気になってしまうこともあります。
自分自身が早食いや食べるのが遅いタイプであれば、他の人から指摘されることもあります。その際、「ゆっくり食べているつもりなんだけど‥」「早く食べようと頑張っているんだけど‥」と悩んでいる方もいるのではないかと思います。
一見、この早食いと食事が遅いことは正反対に見えますが、ある共通点があるのをご存知ですか?そこで今回は、早食いと食事が遅いことを歯科の観点からお話しさせていただき、悩んでいる方へ少しでも助力になったらと考えています。
目次▼
早食いの人によく見られる状況
早食いは以下のような傾向がみられます。この中に当てはまる項目があれば早食いの恐れがあります。
1. 一緒に食事をする人たちよりも食事が早く終わり、相手の食事を待つ時間が長い。
2. ほとんどかまずに丸呑みしてしまう。
3. 食べ過ぎてしまい、標準体重より太ってしまう。
4. 食べ物を飲み物で流しこんでいる。
5. 口の中に食べ物があるのに次の食べ物を食べようとする。
6. 食べるのを急いでしまいむせることがある。
早食いはなぜ起こるの?
1. かみ合わせの不具合
「乳歯が抜けてしまった」「かみ合わせが悪い」「むし歯で痛い・または歯が崩壊している」などの問題が原因で、食べ物を咬んで粉砕することを諦めてしまい、丸呑みしてしまうことが習慣になってしまう場合があります。
2. お口の機能や筋力が低下している
お口周りの機能や筋肉の発達が不十分な場合、食べ物をかまずにどんどん飲み込んでいくことがあります。
3. 発達に合わない食べ物
幼児は乳歯列のため、成人と同じ硬さの食べ物や、繊維質の食べ物をかむことは難しい場合があります。発達に合わない食べ物を与えると、かむことを諦めてしまい、丸呑みする傾向になるため、結果的に早食いや食べ過ぎに繋がります。
4. 生活習慣、食べる環境
保護者の方が忙しく子供に早く食べるように急かす、兄弟が多く食べ物を競い合う、給食で誰が早く完食できるかを競争している、昼食の時間が少なく早く食べないと間に合わない等、食べる環境によって早食いになる場合があります。
食事に時間がかかる人に見られる状況
食事が遅い人にはこのような傾向がみられます。
1. 食べ物を口の中に入れたあといつまでもかみ続けている
2. なかなか飲み込めない
3. 他の献立に移ることができない
4. 食事中にぼーっとしてしまう
5. 食事の時に他のことをしてしまう
食事に時間がかかる原因は?
1.かみ合わせやお口周りの筋肉に問題がある
「歯が生えていない・または失っている」「かみ合わせに異常がある」「かみ合わせに影響するようなむし歯がある」「お口周りの筋肉の力が衰えている」などの問題があると、食べ物をかんでもうまくまとめることができず、なかなか飲み込めないために、食事に時間がかかってしまうことがあります。
2. 栄養面を考えるあまり完食を強制してしまっている
保護者の方が、栄養面を心配して完食をするように厳しくすると、それに応えようとして食事に時間がかかってしまうことがあります。
3. 食事内容に問題がある
子どもの場合、硬い食べ物が多いと、食事中に疲れてしまい、完食までに時間がかかってしまう場合があります。
また、おやつを与えすぎてしまうと、夕食時に空腹の状態ではないためあまり食べない・食べるのが遅くなる傾向があります。
4. 偏食・好き嫌いがある
食べ物に好き嫌いがあると、嫌いな食べ物は躊躇したり、飲み込めずに口にため込むことがあります。
5. 集中力が散漫になりやすい性格
食事中にぼーっとしてしまう、ずっと喋っていてなかなか食事に手をつけない、席から離れてしまい歩き回る・他のことをしているなど、集中できない場合は食事が遅くなります。
6. 食事に集中できない環境になっている
テレビをつけっぱなしにしている、タブレットやスマートフォンが食卓にある、おもちゃや絵本などが近くにあるなど、食事に集中できない環境では、食事が遅くなりやすいです。
「早食い」と「食べるのが遅い」に見られる共通点
ここまで、「早食い・食べるのが遅い」原因について記載させていただきましたが、中には同じような原因であるにもかかわらず、その原因の対処の仕方によって変わってしまうことがあります。ここではそのような共通して部分について説明していきます。
1. かみ合わせの問題
歯が生えてきていない、歯の本数が足りない、歯並びや咬み合わせの異常、むし歯で歯が欠けた、痛いなどが原因で十分に食べ物をかむことができない、かみづらいことがあります。
そのため途中であきらめてしまい飲み込んでしまえば早食いのクセがつきやすくなり、うまくいかない中で頑張って最後まで遂行すれば食べることが遅くなってしまいます。
早食いはお口周りの筋肉を使用する回数が少なくなるためさらに早食いを助長させてしまう恐れもあります。
2. お口周りの筋肉の力や機能の問題
食事を食べるためには取り込む・食べ物をまとめ固める・食べ物の塊を喉の奥に送る動作が必要です。その際に舌やほほ、唇の筋肉が運動します。
お口周りの筋力の発達が進んでいないために、かんだはずの食べ物が粉砕されていない、舌やほほで上下の歯の間に食べ物を誘導できない、食べ物と唾液を混ぜて食べ物の塊を作ることができないために、かむ時間が短すぎたり、長すぎたりしてしまいます。
3. 食べる物の形や大きさの問題
子どもの口の発達に合わない形態の食べ物を食事として提供していると、かむことをあきらめてしまい丸呑みをしてしまう、食べづらく時間がかかってしまう傾向になり、早食いや食事の遅いにつながってしまいます。
また細かすぎてしまう、軟らかい食べ物に偏ってしまうのも丸呑みしやすくなる、軟らかい食事以外で苦戦してしまうことがあります。
「早食い」「食事が遅い」の共通する原因を解決するためには?
1. かみ合わせ問題への対応策
食べ物をかめるためにお口の中が十分な環境が整っているかを確認するためにも歯科医院での定期的な来院は必要と考えられます。特にむし歯は発生・進行しないように管理してもらいましょう。歯が何らかの原因で生えてこない、歯並びやかみ合わせの異常については外科治療や歯科矯正治療が必要になります。
2. お口周りの筋肉の力や機能の問題への対応策
推奨されるかむ回数は一口につき30回です。食事の歳に飲み物を近くに置かない、保護者の方が一緒に食事を行いよくかんで食べるお手本になる、「よくかんで食べてね」など食事の際に声かけを継続してもらうことが必要です。毎日かむ回数を少しみてあげて「今日は○○回かめたね」と伝える、回数を記録していくことも良い方法と考えられます。
歯科医院では一定の間隔で歯科医師や歯科衛生士に口腔機能訓練を行ってもらいお口周りの筋力を鍛えていく方法があります。食事中にムセやのどのつまりがある場合は小児科医と連携をとって治療を行なっていく場合があります。
3. 食べる物の形や大きさの問題
「しっかりかめる食事をしましょう」と聞くとついつい硬い食べ物を想像しがちになってしまいます。硬いものだけを食べることが良いのではありません、かむ回数を増やすことが大切です。
食材の選び方や調理法のポイントはかむ回数を増やせるものです。そのためには
A. 大きく切る
B. 歯ごたえを残す
C. 食材の組み合わせ
の3点に気をつけてみましょう。
A. 大きく切る
包丁で食材を切る回数を減らして大きな食材で料理をしましょう。大きくすることで前歯を使ってかみきり、奥歯ですりつぶして歯をしっかり使うことができます。
B. 歯ごたえを残す
かむ量や回数は、同じ食べ物でも調理法によって変化します。とろける食感の料理は魅力的ですが、歯ごたえのある食事もメニューに加えてみましょう。特に子どもが好きな食べ物はは食べやすい傾向があるために、かむ回数が少なくなりがちです。口をたくさん動かせるような食事を選んでください。
C. 食材の組み合わせ
食材にちょい足しをして、かむ回数を変化させることもできます。例えば、納豆にちりめんジャコや高菜、たくあんを加えたり、白米に雑穀や玄米を加えるなど工夫を加えることでかむ回数を増やすことが可能です。
まとめ
1. 早食いの原因として、「かみ合わせの不具合」「お口の機能や筋力が低下」「発達に合わない食べ物」「生活習慣や食べる環境」がある。
2. 食事が遅い原因として「かみ合わせの不具合」「お口の機能や筋力が低下」「食べ物の硬さ」「食べ物の好き嫌い」「食事に集中できない性格、環境」がある。
3.共通項目として、「かみ合わせの不具合」「お口の機能や筋力が低下」「食べ物の硬さや形」がある。
4. 同じような原因であるにもかかわらず、その原因の対処の仕方によって早食いにも食べるのが遅いにも変わってしまうことがある。
この記事を書いた人
医療法人社団 統慧会 かわべ歯科 理事長 川邉滋次
歯科医師 食育アドバイザー 幼児食アドバイザー
永久歯の前歯は6歳前後で生えてきます。実は前歯は生えたての状態では先端部分がギザギザした形になっています。このギザギザは使っているうちにすり減って2〜3年で消えていきます。
そのため10歳以降になってもこのギザギザが消えていない場合は前歯がうまく使えてない、または前歯同士の接触がないかみ合わせ(開咬)になっている恐れがあります。その場合は、前歯を使って食事をかむようにしていきましょう。
参考文献
1. 田村文誉, 木本茂成, and 山崎要一. "保護者が感じている子どもの食の問題と歯科医療の役割." 小児歯科学雑誌 55.1 (2017): 18-28.
2. 淀川尚子, et al. "母子の食物新奇性恐怖と食生活コミュニケーションが野菜摂取におよぼす影響." 民族衛生 82.5 (2016): 183-202.
3. 小児科と小児歯科の保健検討委員会.委員会報告「子どもの間食」に関する考え方.小児保健研 2012 ; 71(3): 455-460.
Comments