はじめに
子どもの「話す言葉がはっきりしない」「舌足らずな話し方をする、」「しか→ちか・おすし→おしゅし等うまく表現できない言葉がある」などの発音に関係するお悩みを当院にご相談に来られる方も少なくありません。
もちろん、低年齢からはっきり話せる子どもはほとんどいるわけではありません。言葉の発達とともに発音の発達は進みます。発音の完成(90%以上正しく発音される)時期の目安は以下のとおりです。
(2〜3歳頃)
母音(ア・イ・ウ・エ・オ)
タ行(タ・チ・ツ・テ・ト)
パ行(パ・ピ・プ・ペ・ポ)
マ行(マ・ミ・ム・メ・モ)
(3〜4歳ころ)
カ行(カ・キ・ク・ケ・コ)
ガ行(ガ・ギ・グ・ゲ・ゴ)
ダ行(ダ・ジ・ヅ・デ・ド)
(5〜6歳ころ)
サ行(サ・シ・ス・セ・ソ)
ザ行(ザ・ジ・ズ・ゼ・ゾ)
ラ行(ラ・リ・ル・レ・ロ)
低年齢であれば「赤ちゃん言葉」として幼いからという理由で認識されますが、目安時期を過ぎても発音が難しい場合はコミュニケーションや学習に支障が出てくる場合があります。この場合何かしらの原因があり、対策をすることを考えた方が良いでしょう。
意外かもしれませんが、この発音の問題には歯科でも治療可能な場合があります。
今回は発音の問題の原因と対策についてまとめ、なぜ歯科矯正治療が発音に関係するかを詳しく説明していきます。
目次▼
発音に問題が起こる舌足らずの原因は?
原因1: 形に異常がある
発音の時に使う部分に形の問題があることにより適切に発音できない状態です。これを専門用語で「器官性構音障害」といいます。
形の異常として、「歯ならびやかみ合わせの異常」「舌の裏側にある筋が短い・舌の先端までついている(舌強直症・舌癒着症)ことによって舌の動きが悪くなってしまう」「上あごの天井部分が開いている唇顎口蓋裂や舌が小さい小舌症などの生まれた時の形・大きさの異常」が挙げられます。
タ行やダ行・パ行やバ行などの発音は、軟口蓋という部分と上咽頭の筋肉によって、鼻と喉の境界を一時的に封鎖し、空気が鼻に漏れないようにすることで発音されます。
しかし、この閉鎖がうまくいかず空気が鼻へ漏れてしまうことを「鼻咽腔閉鎖不全(びいんくうへいさふぜん)」といいます。この症状を持っている子どもは鼻から漏れるようなフガフガとした声になることがあり、「パパ」と言っているつもりが「ママ」と発音してしまいます。
原因2: 歯並びやかみ合わせに問題がある
歯並びやかみ合わせは、発音においても大切な働きをしています。不正咬合は発音に様々な影響を及ぼします。
例えば出っ歯(上顎前突)の場合、上の前歯が下の前歯よりもかなり外に出ているため唇が閉じられず 「パピプペポ」などの発音がしにくくなります。逆に受け口の場合は下の前歯が上の前歯より 外に出ているため「サ行」を出すのが困難になります。「さしすせそ」を 受け口で発音すると、いわゆる舌足らずな 幼児のような喋り方になります。これをリスピングといいます。
開咬の場合も「さしすせそ」などの音がうまく発音できません。上下の歯が離れた状態で発音しようとすると舌を出さなければなりません 舌が前に出ることが開咬の原因でもありますが、開咬になると発音がうまくいかないため、舌を差し込んでなんとか発音するようになります。そのため、舌が突出する癖がさらに増悪してしまう結果となります。
原因3: 神経や筋肉に問題がある
神経や筋肉に問題があるために、発音の時に使う部分に麻痺や障害が起こり、適切に発声や発音ができない状態です。これを専門用語で「運動障害性構音障害(麻痺性構音障害)」といいます。
発音だけでなく、話し方のリズム・アクセント・速さにも影響があります。神経や筋肉に影響を与えるのは脳血管障害や脳性麻痺、頭部分の事故やケガなどの全身の問題が挙げられます。
原因4: 聴覚に問題がある
聴覚に障害があるため、手本となる正しい発音や自分の発音を聞き取ることによる学習ができないため、発音に問題が起こっている状態で、「聴覚性構音障害」といいます。
原因5: その他の原因
上記の3つに当てはまらず、大体の発音が完成する5歳くらいになっても、発音に問題が認められる状態を「機能性構音障害」とよびます。原因は不明で、問題のある発音が習慣化されているために、周りに指摘されても自力で修正することは困難です。これにはご両親の発音や普段の使用言語、読み書き能力も関連すると考えられています。
なぜサ行がシャ・シュ・ショと発音されてしまうの?
歯間性構音(しかんせいこうおん)とよばれる、舌の先を上の前歯の裏の歯ぐきに接触させて発音する音(サ行・タ行・ナ行・ラ行)があります。
この発音時に間違って舌の先が上下の歯の間にはさみこんでしゃべるような話し方をすると、サ行がシャ・シュ・ショとペタペタとした舌足らずな話し方になります。発音した時に上下の歯の間に舌が見え隠れするような状態です。
この多くは舌の位置に問題があり、かみ合わせの異常として「開咬」という上下の前歯部分が噛んだ時に当たらず空いている状態も併発していることがあります。
発音に問題がみられる場合の各対応
1. 形に問題がある場合の対応
発音が完成する時期より前であれば経過を観察していき成長を見守っていきます。「小さい頃にはっきり言葉が喋れていたのに乳歯が抜けたら急に不明瞭になった場合」には、歯の交換時期に特有の問題である可能性が高いです。
この場合、舌や唇の訓練をしながら、永久歯が生えてくるまで経過観察していきます。また形の問題は食事の時に口からこぼす、うまくかめないなど他の部分での問題が出てくることがあります。
歯列の異常や、かみ合わせに問題がある場合には、歯科矯正治療やお口周りの筋機能訓練をしていきます。舌の動きに問題がある場合には舌の筋を整えたり、舌のポジションである上のあごを拡大するなどの処置をします。
舌の訓練では舌の正しい位置の指導と、細かい動きができるように舌を様々な場所に動かすトレーニングをします。
鼻咽腔閉鎖不全の対策はスピーチエイドや軟口蓋挙上装置(なんこうがいきょじょうそうち)とよばれる発音を補助する装置などを使用することがあります。
2. 歯並びに問題がある場合の対処法
矯正歯科治療を行うと出っ歯は唇がしっかり閉じるようになり受け口は上顎の前歯が科学の前歯を覆う正しい関係になり開咬は上下の前歯がきちんと閉じます。こうなるといろいろな発音障害は改善する傾向があります。
3. 運動や聴覚に問題がある場合の対処法
この場合は小児科や耳鼻咽喉科、言語聴覚士との連携になります。歯科ではむし歯が進行しないようにお口の中を管理し、予防に努めていきます。
言語聴覚士はことば・聴覚のリハビリテーションを促し、医師や歯科医師の指示のもと飲み込みの訓練や、人工内耳とよばれる音を電気信号に変換する装置の調整をします。
4. その他の問題への対処法
言語聴覚士等ことばの専門家の対応となります。特にこれから小学生になる、本人が気づいて悩んでいる、学校生活で支障が出ている場合にはできるだけ早くスムーズに構音できるように対策をとっていくことが望まれます。
まとめ
1. 発音に問題がある原因は「形」「筋肉」「神経」「聴覚」などの異常が考えられる。
2. 歯科で治療できる発音への対策として歯科矯正治療と筋機能の訓練がある。
3. 発音対策には歯科だけではなく医科や言語聴覚士との連携が大切。
この記事を書いた人
医療法人社団 統慧会 かわべ歯科 理事長 川邉滋次
参考文献
1. 高見観, et al. "小児の構音発達について." 愛知学院大学論叢. 心身科学部紀要 5 (2009): 59-65.
2. 今井智子. "小児の構音障害." 音声言語医学 51.3 (2010): 258-260.
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