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執筆者の写真歯科医師 川邉滋次

歯が重なっている・歯並びがガタガタ 叢生(そうせい)と矯正治療

はじめに


歯並びがガタガタ

叢生(そうせい)は「歯並びがガタガタになっている」「複数の歯が重なっている」という状態です。 見た目でわかるのでイメージしやすいと思います。 歯並びの異常と聞くと、この叢生を想像する方が多いのではないでしょうか?


叢生・乱ぐい歯
歯の重なり

「叢生のある人は全体の26%と統計で示されています。つまり、5人に1人以上の割合でこの歯並び異常が見られます(平成28年歯科疾患実態調査、12〜20歳の106人を対象としたもの)。


歯が重なった部分はプラーク(歯垢)がたまりやすく、清掃が比較的難しいため、むし歯や歯周病にかかりやすくなります。


また、ガタガタの歯並びは上下の歯をかみ合わせた際に歯がバランス良く当たらず、偏りができてしまいます。その結果、集中して強く当たる歯に負担がかかり、歯を失う原因になる恐れがあります。


そこで今回は歯が重なる原因と治療法についてまとめてみました。


▼目次


 

歯が重なる前兆は、小さい頃にわかる?


歯の重なりは、永久歯の前歯が生え始める5〜6歳以降によく見られます。ただし、永久歯が生えてくる前でも、乳歯と乳歯の間にほとんどすき間がない場合は、乳歯よりも大きな永久歯が生えるスペースが足りないため、歯の重なりが予想されます。


歯並びがガタガタになってしまう原因は?

歯並びがガタガタになる原因として、以下の2つが挙げられます。


1. 歯に対してあごの骨が小さい

2. 乳歯にむし歯があったり、乳歯が早く脱落し、歯列が小さくなった


歯に対してあごの骨が小さくなる原因は?


遺伝などの影響で生えてくる永久歯が大きいと、その分あごの大きさを確保する必要があります。そしてあごの骨が小さいと、結果的に歯が重なる可能性は高くなります。 原因は、以下のように「外力による成長不足」や「あごの変形症で発育が悪い」などが考えられます。


原因1:低位舌


口呼吸などで舌が低位だと、 上あごは舌の圧力を受けないためあごが広がらず、狭くなりやすいです。


原因2:クレンチング(食いしばり)


食いしばりがあると、下あごが内側に力を受けることになるため、あごが狭くなる傾向があります。


原因3:片咬み


右や左、どちらかだけで噛むクセが付いてしまうと、よく咬む方の上あごは広がり、下あごが狭くなることがあります。そうなると、「あまり咬んでいない方の上あご」「よく咬んでいる方の下あご」で歯の重なりが発生します。


原因4: 頬杖や寝方


頬杖や寝方などの身体のクセで外力が加わると、その部分の歯列が潰されたように歪んで狭くなります。 これらに気を付けると、歯の重なりの予防につながります。


頬杖

なぜ乳歯の虫歯や早期脱落は叢生の原因になるのか?


原因1:むし歯


乳歯の隣の部分にむし歯があると、歯の幅が確保できなくなり、奥の歯が手前に移動してしまう恐れがあります。奥歯が手前に移動してくると、そこから生えてくるはずの永久歯のためのスペースは失われることになります。


隣接面のむし歯


原因2:乳歯の早期脱落


乳歯のEとよばれる位置にある奥歯が早期に脱落することで、歯の重なりが見られることが多くあります。「6歳臼歯が生えてくる時にEの根を吸収してしまった」ことによって乳歯が早く抜け、そこから6歳臼歯がやや前に生えてくることによって永久歯の生えるスペースを減少させてしまいます。


乳歯の早期脱落の影響

永久歯を抜かない矯正治療は状態と年齢に制限がある


では、既に歯が重なってしまったお子さんの場合はどうすればいいのでしょうか? 小児期であれば永久歯を抜かない治療法も可能です(ただし骨格等の検査が必要です)。


重なり合った歯をきれいに並べるためには、重なった分だけ歯列を延長・拡大することになります。


当院では、基本的な治療としてマイオブレース(マウスピース型の装置)であごを育成してスペースを確保する方法が多く行われています。理由としては、痛みも少なく自然に近い状態で歯並びを治療することが可能だからです。


不正咬合の治療

叢生治療

治療としてよく床矯正装置が使われますが、これは軽度の叢生向きだと当院は考えています。大きな叢生の場合は、骨ごと拡大することが再発防止にもなるため、バイオブロックや急速拡大装置を選択します。


バイオブロック
バイオブロック

床矯正とバイオブロック

大切なのは、「どのくらい歯列を拡大すべきか?」という点です。当院では、歯の幅を1本ずつ計測し、理想的な長さと実際の長さの差を計算して、拡大量を決めています。


歯並びガタガタの治療

歯の重なりを治療

ただし、合計10ミリメートルを超えるような強い歯の重なりが見られる場合、永久歯の抜歯も選択肢に入ってきます。


口腔内スキャナーの画像
当院では口腔内スキャナーを使用して測定しています

また、拡大装置も年齢による制限があります。上あごの骨の柔らかい部分が10代前半に硬くなってくるからです。そのため、永久歯を抜かない歯科矯正治療をご希望の場合は早めのご相談をしていただきたいと考えております。


 

まとめ


1 . 乳歯列ですき間がない歯並びは、永久歯が生えてくる時に重なりを起こす恐れが高い。


2 . 歯の重なる原因として、「歯に対してあごの骨が小さい」または「乳歯のむし歯や乳歯が早く脱落してしまい歯列が小さくなってしまった」ことがある。


3. 歯に対してあごの骨が小さい原因として、「歯の大きさ」「外力による成長不足」「あごの変形症で発育が悪くなっている」ことがある。


4. 重なり合った歯をきれいに並べるためには、重なった分だけ延長・拡大する。ただし拡大には限界があり、重なりが強い場合には永久歯の抜歯も考慮することがある。

 

この記事を書いた人


かわべ歯科院長川邉

医療法人社団 統慧会 かわべ歯科 理事長 川邉滋次


 

参考文献


1. 河合 聡, 口腔習癖 実践編 アイコンで見える化する口腔機能の問題点, 医歯薬出版株式会社, 東京, 2021.


2. Hafez, Hend Salah, et al. "Dental crowding as a caries risk factor: a systematic review." American Journal of Orthodontics and Dentofacial Orthopedics 142.4 (2012): 443-450.

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