はじめに-交叉咬合とは?
正しいかみ合わせはしっかりかんだ時に上の歯列が下の歯列よりも外側に位置しています。
上下のかみ合わせが逆になっている状態を「交叉咬合(こうさこうごう)」と呼びます。交叉咬合には「前歯・奥歯」「両側・片側」のタイプがあります。
歯の生え変わりの時期に奥歯のかみ合わせが逆になっている場合、上下の中心位置が左右どちらかにずれており、下あごが傾いている場合があります。
「左右どちらか片側のみの奥歯が逆のかみ合わせ」は放置しておくと、下あごの傾きも伴っていることが多く、歯の生え変わり期間(10歳〜14歳頃)に下あごがかみ合わせに合わせて成長してしまいます。この場合、あごの骨自体が変形して顎関節の異常や顔つきに影響してしまう恐れもあるため、下あごが成長する前の歯科矯正治療をお勧めします。
ただし、両側とも奥歯のかみ合わせが逆の場合には難易度が高くなる傾向があるため、大学病院等を受診された方が良いと考えられます。
ちなみに、前歯のかみ合わせが逆になっているかみ合わせは2つパターンあり、1〜2本の前歯が逆になっている状態を「前歯部交叉咬合(ぜんしぶこうさこうごう)、3本以上連続して逆の状態を「反対咬合」とよびます。
今回は交叉咬合について詳しく解説します。
▼目次
交叉咬合の原因
交叉咬合の原因としては、「上あごが狭い」ことが考えられます。ここでは上あごが狭くなる理由について述べていきます。
1. 口呼吸によって上あごが狭くなってしまう
「口呼吸」がクセになると口から空気を出し入れするために舌の位置が低くなる→上の歯列に内側の圧(舌)が低下し、頬からの外側からの圧がかかることになるため上の歯列が狭くなります。
2. 指しゃぶりによって上あごが狭くなる
指しゃぶりによって指を上下前歯の間に挿入することで「舌の位置が低くなる」、指を吸うことで「頬からの圧力が強くなる」ため上の歯列が狭くなります。
口呼吸や指しゃぶりによって狭くなった上の歯列は特徴的な「V字」になります。
3. 「遺伝」で上あごの成長がうまくいかず上あごが狭くなってしまう。
遺伝が原因で成長不足している場合、上の歯列は放物線の形をしているため、歯並びだけ見るときれいにみえますが、「奥歯だけでなく前歯も逆のかみ合わせになっている」「両側で奥歯が逆のかみ合わせになっている」ことがあります。
幼児〜小学生までの交叉咬合の対策・治療方法
かわべ歯科での小児の交叉咬合の治療は、原因の解明→上あごを拡大→かみ合わせを決める→機能訓練→経過観察の順で行います。
1. 原因の解明
セファロ分析(矯正用のレントゲン)や模型分析を行い、骨格に問題ない場合はまず交叉咬合の「原因」の確認と対策を行います。口呼吸であれば鼻呼吸を促すトレーニングを行い、指しゃぶりが原因であれば指しゃぶりの習慣を直すことが大切です。
原因が解決しないまま矯正装置のみで治療を行うと、原因が治療に悪影響を与え続けるため、「治療がうまくいかない」「治療後に歯並びやかみ合わせが後戻りする・歯並びが崩れる」ことが多くなります。
2. 上あごを拡大
上のあごが狭くなっている状態には、「上のあごの幅を拡大する装置」を使用します。装置の種類として、「クワドヘリックス」「バイオブロック」「急速拡大装置」などがあります。
拡大はむやみに広げるのではなく、歯の大きさとあごの大きさを測定し、必要な拡大量を決めていきます。目標とする拡大量からペースや期間が予測できます。
3. かみ合わせを決める
上あごを拡大しても下あごとかみ合わせた時に、今までかんでいた場所と理想の噛み合わせの2つのかみ合わせができるため、かみ合わせが不安定になる時期があります(これを二態咬合と呼びます)。そのため理想とするかみ合わせに誘導する処置を行います。
4. 機能訓練
理想とするかみ合わせで問題なく食事ができているかを確認し、かみしめの訓練などを行い定着させていきます。
5. 経過観察
永久歯に生え変わるまで噛み合わせや歯並びが維持されているか、後戻りが起きていないかを定期的に確認します。
当院の歯科矯正治療(交叉咬合)
(その1 前歯の交叉咬合)
(その2 奥歯の交叉咬合)
まとめ
1. 上下の奥歯のかみ合わせが逆になっている状態を交叉咬合という
2. 交叉咬合の原因は「口呼吸」「指しゃぶり」「遺伝」がある。
3. 「口呼吸」「指しゃぶり」が原因の交叉咬合は上あごの歯列がV字になる。
4. 「遺伝」が原因の交叉咬合はきれいな放物線の形をしているが、奥歯だけでなく前歯のかみ合わせも逆になっていることが多い。
5. 交叉咬合の治療は3歳頃から発見しやすく、見つけた場合には早期に相談し原因を知ることが大切。
6. 原因を取り除いた後に上のあごの幅を拡大する治療方法がある。
この記事を書いた人
医療法人社団 統慧会 かわべ歯科 理事長 川邉滋次
交叉咬合=悪いかみ合わせと思われがちですが、入れ歯の場合は人工歯をあえてこの交叉咬合にすることで入れ歯が安定する場合があります。
参考文献
1. Profit著, 高田健治訳: 新版プロフィトの現代歯科矯正学. クインテッセンス出版, 東京, 2004.
2. 河合 聡著, 口腔習癖実践編 アイコンで見える化する口腔機能の問題点. 医歯薬出版株式会社, 東京, 2021.
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