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執筆者の写真歯科医師 川邉滋次

永久歯の本数が足りない:歯並びに影響する先天欠如(せんてんけつじょ)

はじめに(永久歯の本数)


皆さんはヒトの歯が何本あるかご存知ですか?


ヒトの歯は親知らずを除いて上あごに14本、下あごに14本、合計で28本あります。
正常な歯列模型(親知らずを除く)

乳歯列は上あご10本、下あごが10本の合計20本です。


永久歯列は上あごに14本、下あごに14本の合計で28本あります。(親知らずを含めると32本です)


私たちは永久歯が生えてきてから、28本の永久歯を何十年もの長い期間使い続けることになりますが、この間に「むし歯」「歯周病」「歯が割れる」「歯科矯正のための抜歯」などお口のトラブルや歯科治療によって歯を失ってしまうこともあります。


ただ、皆が最初から永久歯の本数が28本存在するとは限りません。元々永久歯が28本に満たない場合もあります。


今回は元から永久歯の数が足りない状態=先天欠如(せんてんけつじょ)についてまとめてみました。参考にしていただけると幸いです。


▼目次


 

永久歯が足りない原因は?対策方法はあるの?


本来生えるべき永久歯28本の中で、1本以上歯が足りない状態を歯の先天欠如(せんてんけつじょ)、略して「先欠(せんけつ)」とよばれています。


原因としては、永久歯がつくられる時期になにかの障害があってできなかった、歯の細胞が増えなかったことで起こります。永久歯が複数存在していない場合は、遺伝の影響や全身の病気、ホルモン分泌の異常などが考えられます。


ただ、お子さんの永久歯がつくられる時期はお母さんのお腹の中にいる時から生後9ヶ月のため、この時期に歯の先欠に対して対策することは非常に難しいと考えられます。


歯の先欠は10人に1人いる!?


2010年に日本小児歯科学会で行われた7歳以上の小児15,544人を対象にした調査では、先欠は1,568名(10.09%)でした。これは「約10人に1人」ですので、決してまれでないことがわかります。


歯の先天欠如の発生率

先天欠如の発生は上の歯(4.37%)よりも下の歯(7.58%)の方が多いですが、左右で差はないようです。


歯の種類では下の第2小臼歯(下5番)が多く、次いで下の側切歯(下2番)、上の第2小臼歯(上5番)、上の側切歯(上2番)の順と報告しています。


欠如本数については1本が5.22%、2本が2.93%、3本が0.57%、4本が0.50%、5本以上が0.87%となっています。


男女や地域、人種での発現の差に関しては、「差が見られない」「女性の方が男性より多い」と報告が様々でまだ不明な部分があります。


先欠を早く発見するにはどうしたらいいの?


子どもの場合、先欠は普段の生活で発見することは難しいとされています。なぜなら、永久歯が存在しなくても、歯が生えかわる時期まで異常が起きることがほとんどないからです。


そのため以下の4つの異変で、先天欠如を疑う必要があります。


1. 乳歯の生え変わりが遅い


2. 乳歯に癒合歯(ゆごうし)がある。

※2つの隣同士の歯がくっついた状態を癒合歯と言います


癒合歯(ゆごうし)は2本の隣同士の歯が1本にくっついてしまう状態です。大人の歯よりも子どもの歯で見られ、下の前歯の側切歯と犬歯(乳歯なら乳側切歯と乳犬歯)または中切歯と側切歯(乳歯なら乳中切歯と乳側切歯)とのくっつきが多くみられます。乳歯では約4%ほどで起こるため決してまれな状態ではありません。原因は不明ですが顎の中で歯が作られる過程で隣とくっついてしまった説があります。
癒合歯(隣同士の2本の歯がくっついて1本になっている)

3. 両親に歯の先欠がある


4. 乳歯列(3歳〜5歳頃)の時に乳歯に先欠がある


以上のポイントはあくまでも可能性なので、必ずあるわけではありません。確実性を考えると、お子様がかかりつけの歯科医院に定期的に通い、レントゲンで先欠がないかを早期に確認していただくことをお勧めします。


ちなみに、幼稚園や保育園での検診や小学校の学校検診では、レントゲン撮影を行わないため、簡易的な診察だけなので先欠の診断は難しいです。


年齢によっては、永久歯の形がなく、欠如歯の可能性があると思われると部位でも、数年後に再度撮影すると、その部位に永久歯が発見されるケースもあります。


先欠は咬み合わせや歯並びに影響する


永久歯が足りない状態のため、


1. 歯と歯の間が空いてしまいすきっ歯になる。


2. 歯が生えていないスペースに隣の歯が倒れ込んできてしまう。


3. 歯が生えていないスペースに上下の歯が伸びてきてしまう。


4. かみ合わせが悪くなってしまう。


などの歯並びへの悪影響が考えられます。


子どもの歯科矯正治療で先欠はどのように対応するの?


子どもの歯科矯正治療では状況に応じて以下の対応をとっています


1. 歯科矯正治療で足りない歯のスペースを閉じる。


2. 足りない歯のスペースを確保し、将来インプラントやブリッジ、入れ歯などで補う。


バンドループ
バンドループ(歯1本分の隙間を確保する)

ナンスのホールディングアーチ
ナンスのホールディングアーチ(歯列全体のスペース確保)

バンドループ
バンドループ(歯列全体のスペース確保)


 

まとめ


1. 永久歯28本の中で1本以上足りない状態を歯の先天性欠如という。


2. 多くの歯が欠如している場合には遺伝の影響や全身の病気、ホルモン分泌の異常などが考えられる。


3. 歯の先天性欠如に対する予防は難しい。


4. 歯の先天性欠如は約10人に1人。


5. 歯の本数が少ないと歯並びや咬み合わせに影響する。


6. 歯科矯正治療で歯のスペースを調整し咬み合わせ治療を行うことも可能。場合によっては乳歯をそのまま残しておくケースもある。


 

この記事を書いた人


静岡県菊川市のかわべ歯科院長兼理事長で歯科医師の川邉滋次です。

医療法人社団 統慧会 かわべ歯科 理事長 川邉滋次


 

参考文献

1. 山﨑要一, 岩﨑智憲, 早﨑治明, 齋藤一誠, 徳冨順子ほか: 日本人小児の永久歯先天性欠如に関する疫学調査, 小児歯誌, 48 : 29−39, 2010.


2. 呉健一, 新井一仁: 永久歯先天性欠如の発現様式のメタアナリシス A meta-analysis of tooth agenesis pattern of permanent teeth, 日本矯正歯科学会雑誌, 70(3): 184-196, 2011.


3. 河井 聡: 萌出障害 先天欠如,歯胚位置異常, 過剰歯, 捻転歯 臨床対応CASEBOOK. 東京. ヒョーロンパブリッシャーズ. 2022.

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