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執筆者の写真歯科医師 川邉滋次

カロリーゼロ飲料に入っている「人工甘味料」はむし歯のリスクはないの?

はじめに


0カロリー飲料

皆さんはカロリーゼロ飲料を飲んだことありますか?


日本では、厚生労働省告示の食品表示基準に基づいて、食品のエネルギー(カロリー)に関する表示が定められています。この基準により、食品や飲料のエネルギー量についての表示が行われます。100グラムあたり5キロカロリー未満しか含まれていない場合、「カロリーゼロ」と表示することができます。


そのため実際には完全にカロリーがゼロではないこともあります。しかし、上記の基準を満たしている場合、日本の表示基準に従い「カロリーゼロ」と表示することが許されています。


カロリーゼロ飲料の中には「特定保健用食品(通称トクホ)」という、安全性や有効性について国からの許可を受けている商品もあります。


飲料の陳列

安全性が日本で認められている一方、2023年WHO(世界保健機関)の勧告では、健康への良い影響は期待できないことを指摘しています。


では、歯科の観点から、カロリーゼロ飲料の成分は歯や口の中に悪い影響はないのでしょうか?


そこで今回は、「カロリーゼロ飲料に入っている成分」と、「カロリーゼロ飲料は歯に影響しないのか?」についてまとめてみました。


▼目次


 

カロリーゼロ飲料と他の飲料の違いは合成甘味料


まずは、同じメーカーの炭酸飲料Aと、同名のカロリーゼロ炭酸飲料Bの原材料表示を見てみましょう。原材料表示は配合量の多い順番で記載されています。


炭酸飲料
炭酸飲料A

カロリーゼロ飲料
カロリーゼロ炭酸飲料B

Aは果糖ぶどう糖液糖や砂糖などの糖類が1番多く、次いで炭酸、カラメル色素が入っています。


Bは最初に食物繊維、その後炭酸、カラメル色素が記載されています。甘味成分は酸味料の後の甘味料が相当します。


このAとBの異なる点としては、以下のことが挙げられます。


1 . 内容量以外に食物繊維の有無と甘味成分の違いがあった。


2 . Aの原材料の中で糖類の配合量が一番多かった。


3 . Bは食物繊維の配合量が多く、甘味料の配合量は少なかった。


4 . Bの甘み成分は4種類入っていた。(Aは2種類)


食物繊維についてはトウモロコシ由来の「難消化性デキストリン」とよばれる食後の血糖値の上昇を抑える働きがあり、この成分がトクホに関与していると考えられます。


そして甘み成分ですが、Bの原材料表示に記載されている4種類(アスパルテーム・Lフェニルアラニン化合物・アセスルファムK ・スクラロース)は「合成甘味料」とよばれています。つまりカロリーゼロ飲料はこの合成甘味料が関わっていることがわかります。

 合成甘味料(人工甘味料)ってどんなもの?


合成甘味料は、化学合成によってつくられる、食品衛生法に基づく指定添加物です。


甘味料は砂糖や果糖などの摂取したら体内でエネルギーとなる「糖質系」と体内で消化されにくい「非糖質系」に分けられますが、合成甘味料は非糖質系の甘味料です。


合成甘味料の分類

少量で砂糖の数百倍以上の甘みがでるので、カロリーが抑えられ、「ゼロカロリー」や「ノンカロリー」、「カロリーフリー」など0または低カロリー甘味料として使用されます。


ちなみに「人工甘味料」は非糖質系の合成甘味料だけでなく糖質系の糖アルコール(キシリトールなど)も含むため、0カロリー飲料で主に使用されているのは合成甘味料という表現のほうが適切と考えられます。


 合成甘味料の種類


アスパルテーム とスクラロース
アスパルテーム とスクラロース

合成甘味料は「アスパルテーム」「スクラロース」「アセスルファムK」「サッカリン」「ネオテーム」などがあります。食べ物や飲み物の商品表示にはこの名前が記載されています。


この中で古いのがサッカリンで、1878年アメリカ合衆国の大学でコールタールの研究中に偶然発見したのがはじまりです。


ちなみにステビアという甘味料を昔のスポーツドリンク等で目にした方もいるかと思いますが、ステビアは「天然甘味料」であり合成甘味料ではありません。


1 . アスパルテーム


アスパルテームは砂糖と比較して甘味度は200倍あり、炭酸飲料やガム、医薬品の苦味を抑えるためにも幅広く使用されています。合成甘味料の中でも比較的多く使用されています。


一部報道等で、アスパルテームに発がん性があるというニュースが流れていましたが、発が性の分類のうち、4段階の下から2番目という位置づけであり、わらびや漬け物と同じということもあり、許容量を守っていればリスクは少ないとWHOが見解しています。


発がん性の分類

2 . スクラロース


スクラロースは砂糖の600倍ほど甘味度があります。


砂糖に近い味があり後味が良く、加熱しても安定していることから、飲料や菓子、パンなどに使用されています。合成甘味料の中では重量単価が高い甘味料です。


アスパルテームやスクラロースはキシリトールと同じ特定保健用食品(通称トクホ)に使用される甘味料です。


3 . アセスルファムK


アセスルファムKの「K」は「カリウム」という意味です。甘味が早く出てすっきりとしていることが特徴です。


濃度が高くなると少し苦味があるため他の合成甘味料と組み合わせることが多いです。熱や酸に強い性質もあり飲料(健康飲料も含む)や菓子に使用されています。


カロリーは0キロカロリー、甘味度は砂糖の200倍です。


4 . サッカリン


サッカリンは砂糖の350倍の甘味度がありますがカロリーは0キロカロリーです。一度は発がん性の疑いで販売が禁止されていましたが、見直しの結果、発がん性リストから削除され現在では再認可されています。


5 . ネオテーム


ネオテームはアミノ酸由来の合成甘味料で、砂糖の7千〜1万3千倍と他の合成甘味料よりもとても高い甘味度を持っているのが特徴です。同じアミノ酸由来のアスパルテームの「ネオ」(新しい)という位置付けです。


1万3千倍と聞くと驚きですが、この甘さを超えた1万4千〜4万8千倍の甘さをもつ「アドバンテーム」という人工甘味料が2014年日本で認可を受けています。


人工甘味料の輸入量
農林水産省砂糖および異性化糖の需給見通しより(グラフの表記を一部改変)

合成甘味料の甘さ

なぜ砂糖の代わりに合成甘味料が使用されるの?


合成甘味料は、「砂糖と違う構造」「天然の甘味料と比較して甘さが非常に高い」ことから、カロリーを抑えることができる、血糖値の上昇を抑えることができる、むし歯の原因にならない・なりにくいことが理由として挙げられます。


砂糖の構造式
砂糖(スクロース)の構造式

アスパルテームの構造式
アスパルテームの構造式

1. カロリーを抑えることができる


例えば砂糖1グラムあたりのカロリーは4キロカロリー、アスパルテームも同じ1グラムで4キロカロリーです。(スクラロースやアセスルファムKは0キロカロリーです)


しかし甘味度がアスパルテームの場合、砂糖の200倍あるため、甘味を出すために砂糖50グラム(カロリー換算200キロカロリー)使用する必要のある飲料が、アスパルテームを使用すると0.25グラム(カロリー換算1キロカロリー)で同じような甘みを出すことが可能と考えられます(実際は他の合成甘味料と複合しているケースが多いです)。


飲料の場合100ミリリットルあたり5キロカロリー未満は「カロリーゼロ」「ノンカロリー」「カロリーフリー」と記載することができますので、合成甘味料を使用すると0カロリー飲料を作ることが可能です。


スクラロースやアセスルファムKは体内で吸収されないため、カロリーは0となります。


2. 血糖値の上昇を抑えることができる


ブドウ糖を投与した時は血糖値の上昇がみられたが、合成甘味料の投与では血糖値に変化が認められなかったことから、合成甘味料は血糖値やインスリン値に直接影響を与えないことが確認されています。


3. むし歯の原因にならない・なりにくい


アスパルテームはたんぱく質の成分であるアミノ酸からできているため、むし歯原因菌が酸やプラークの成分をつくることができず、むし歯の原因になりません。


アセスルファムKやスクラロースもむし歯原因菌に代謝や分解されることがないためむし歯の原因にならないことが報告されています。


合成甘味料は安全性に問題はないの?


合成甘味料は「トクホとして国が認可している」「カロリーが少ない」「血糖値が上がりにくい」「むし歯になりにくい」とメリットが多く、まるで魔法のような甘味料にみえますが、安全性に問題はないのでしょうか?


結論としては、「不明な部分が多いため積極的に飲食することは控えたほうが良い」と考えられます。その理由をまとめてみました。


1. 食べすぎてしまう


食べ過ぎ

合成甘味料は甘味の後に血糖上昇が起こらないため、食べ過ぎてしまい、むしろ太りやすくなる可能性があると報告されています。


血糖値は満腹を知らせてくれるセンサーです。通常の清涼飲料であれば血糖値が上がるのに対し、合成甘味料を使用した飲料の場合血糖値が上がりにくいため、食事を多く食べ過ぎてしまう恐れがあると考えられます。


また、合成甘味料の飲み物はカロリー0のイメージが強いことから、カロリーの高い食べ物を組み合わせて食べる傾向があるため、カロリーを多く摂取してしまうことがあります。


2. 味覚の麻痺


人工甘味料は砂糖よりも甘味が強いため、その甘味に慣れてしまうと、昔よりも甘味が強いものでなければ満足できなくなる恐れがあります。


3. 甘味の依存や中毒


甘いものは一時的であればストレスの解消に役に立ちますが、強い欲求が続くともっと食べたい・もっと飲みたいとコントロールできなくなり、依存や中毒になってしまいます。


つまり、人工甘味料はカロリーを気にすることが少ないために多量に摂取してしまい依存や中毒が起こりやすいと考えられます。


4. 長期的な健康面への影響がわからないこと


人工甘味料は腸内細菌叢や味覚を介して糖の代謝に影響を与える可能性が明らかとなりつつある。更なる人での検証が必要である。

これは人工甘味料が腸内細菌にどのように影響するかを検証した論文の一部です。これまでの研究で合成甘味料は安全とされていますが、長期間の健康への影響については不明な部分が多いです。ダイエット目的で人工甘味料入りの0キロカロリー飲料を毎日飲み続けたりすることは、避けたほうが良いと考えます。


5. アレルギー


合成甘味料はまれにアレルギーを起こすということが報告されています。スクラロースやアスパルテームなど一部の合成甘味料でも、アレルギーを起こすことが分かっているため、アレルギー反応を経験した場合には、速やかに医科に受診をしてください。


2023年WHOの勧告でさらにわかったこと


WHO(世界保健機関)は、研究論文などを検証した結果、年齢に関係なく「人工甘味料を使用しても体脂肪を減少させる長期的な効果は得られない」と結論づけています。合成甘味料を使用して肥満や体重をコントロールする効果は科学的に証明できておりません。


ただし、糖尿病の方が調査対象に含まれていないため、糖尿病の基礎疾患がある人は勧告の対象から除外しています。


さらに、合成甘味料を長期的に使用すれば、2型糖尿病や血管系の病気のリスクが上がる等の悪影響が出る可能性があると指摘しています。


カロリーゼロ飲料は歯に影響がないの?


合成甘味料はむし歯になりにくいことは明らかになっていますが、甘みの依存や中毒という点では、カロリーゼロ飲料だけでなく他の糖質を多く摂ってしまい、結果的にむし歯のリスクが高くなる恐れもあります。


また、カロリーゼロ飲料は「酸性」の飲み物が多いです。頻繁に摂取するとむし歯ではなく、飲食物の酸が歯を溶かす「酸蝕症」を引き起こすリスクは高くなると考えられます。


 

まとめ-合成甘味料(人工甘味料)とむし歯


1. 合成甘味料は化学合成によってつくられた食品衛生法に基づく指定添加物である。


2. 合成甘味料にはアスパルテーム、スクラロース、アセスルファムK、サッカリン、ネオテーム、アドバンテームがある。


3. 合成甘味料は「カロリーを抑えることができる」「血糖値の上昇を抑えることができる」「むし歯の原因にならない・なりにくい」という理由で砂糖の代替甘味料として使用されている。


4. 合成甘味料は安全性においてまだ不明な点が多いため、積極的な摂取は控える方が良いと考えられる。


5. カロリーゼロ飲料は清涼飲料水同様「酸性」のものが多いため、頻繁に摂取すると酸蝕症のリスクは高いと考えられる。


6. 合成甘味料を使用しても体脂肪を減少させる長期的な効果は得られない。


 

この記事を書いた人


かわべ歯科院長川邉滋次

医療法人社団 統慧会 かわべ歯科 理事長 川邉滋次


これは豆知識ですが、ゼロカロリー飲料を糖度計(ブリックス法)で測定すると、糖度が約2〜3と低く出ることが多いです。(砂糖が入った炭酸飲料は約5〜15)その理由としてブリックス法は砂糖などの内容物の密度を光の屈折率で測定するため、甘さは一緒なのに合成甘味料の入っている量が砂糖と比べて非常に少ないため糖度が低くなります。


 

参考文献


1. Allison C Sylvetsky. Metabolic effects of low-calorie sweeteners: a brief review. Obesity 2018:https://doi.org/10.1002/oby.22252


2. Steinert RE et al. Effects of carbohydrate sugars and artificial sweeteners on appetite and the secretion of gastroin- testinal satiety peptides. Br J Nutr 105(2011): 1320-1328

3. Suez, J et al. Artificial sweeteners induce glucose intolerance by altering the gut microbiota, Nature 2014; 514: 181-186.


4. Low-calorie sweetener use and energy balance: Results from experimental studies in animals, and large-scale prospective studies in humans. Physiol Behav 2016; 164(Pt B): 517-523.


5. 藤田 孝輝. 甘味料としての糖類Sugars as Sweeteners.日本調理科学会誌2020; 53(2): 147-152.


6. 吉田 昊哲, 花田 信弘, 藤原 卓, 眞木吉信, 奥 猛志. ゼロからわかる 小児う蝕予防の最前線.クインテッセンス出版 2018.

7. 農林水産省.令和2砂糖年度における砂糖および異性化糖の需給見通し(第2回).2020.


8. 松村泰宏, 加藤敦子, and 夏見亜希. "エリスリトールによる即時型アレルギーの 1 例." 皮膚の科学 16.2 (2017): 133-138.

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